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咲耶子のモデル・芳子のモデル その故郷

2009年03月13日 10:46

 今日は新聞社の取材で、広島県にある上下(じょうげ)という古い街道ぞいの町を訪ねてきました。
 なにしろここは、『銀のみち一条』で描いたヒロイン、咲耶子のモデルの生誕地。
 えっ、咲耶子にはモデルがいたの? とふしぎがられるかもしれませんが、はい、ずっと描きたかった女性がいて、この物語でその輪郭を借り、私なりに彼女の人物像をつくってみたのが咲耶子です。
 その女性とは、百年前、田山花袋がその出世作『蒲団』でモデルにした女性。
 自然主義の私小説で知られる花袋だけに、モデルにされたその人は、まるですべてが事実であるかのように世間からスキャンダラスに見られ、その後の人生までもゆがめさせられたのでした。
 その悔しさ、いかばかりか。私の『銀のみち一条』は、彼女の思いを引き継ぐことから始まりました。
 だからこそ、ラストでは悩んでしまいました。
 連載時のラストでは、咲耶子は、モデルのこの人と同じ、強く生きる決心はするけれど、書く、という決意からは口にしないままでした。
 けれども単行本化にあたっての加筆では、彼女と同じくモノ書くことをこころざした女として、やはり、どうにでもその決意のもとに、その厳しい人生をペンとともに突き抜けていってもらいたい、と。
 私の決意をこめました。

 上下の町は、まだ明治の息吹が漂うような町でした。ちょうど雛祭りを開催中ですが、観光に特にお金をかけられないからあるもので、と家々に眠っているおひなさまを取り出して飾ることを呼びかけたら、なんと、どこの蔵にもすっごいお雛様が残っていて、中途半端な博物館に行くよりはよっぽど見応えがあります。
 日本人は、明治まで、こんな分水嶺の山の町でも、本当にゆたかに暮らしていたんですね。
 町には、そのモデルの女性、岡田三知代さんの生家が資料館として残っており、やっとたどりつくことのできた感慨を胸に、彼女の肖像写真に向かって、『銀のみち一条』の完成を報告してきました。



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